きょうはあんまり人に話したことのない話をしようと思う。インターネットについてのお話です。
わたしがインターネットに初めて触れたのは高校生のときだった。お父さんのパソコンを使わせてもらって、ヤフーのトップページを眺めたり、乗換案内を使ったりして、すごい世界があるんだなぁ…と驚いたことを覚えている。
でもよく使っていたのは、検索サービスでもポータルサイトでもなくて、チャットサービスだった。当時、ソニーが運営している「さぱり」というチャットサービスがあった。かわいい動物のアバターを作って、公園とか海岸、温泉を散歩しつつ、他の動物と話すという、癒し系のゆるい世界感。3Dグラフィックの精度が高く、その辺を歩いてみるだけでも面白かった。わたしが使っていたのは、ウサギのアバター。裏技とかを使ってレアなカラーリングにしていた。初めの頃は、ゲームだと思ってやり始めたのだけど、徐々に画面の向こうにいるのはロボットなんかじゃなくて、生きている人なんだと分かった。
そこには色んな人がいた。小学生、高校生、大学生、会社員、お医者さん、フリーター、お坊さん…。たまに変な人が紛れ込んで、チャットを荒らしていく人もいたけど。そういうのは本当にごくまれだった。出会い系とか怪しいものではなくて、寂しがり屋が集まるとても健全な世界だった。なんの話をしていたのかはほとんど覚えていないけど、すぐに友達ができた。部屋で何か作業をしているときも、「さぱり」につないでおいて、みんなが他愛もない話をして盛り上がっているのを見るのがなんとも心地かった。みんなが寝静まった真夜中でも、そこに行くと誰かしらがいる。妙な安心感があった。
当時、大学生で大人ぶっていたわたしは、年上の大人とよく話が合った。「君にはなんでも話してしまうな」といって、秘密の話を打ち明けられたりして。親友みたいな絆が生まれてすごく嬉しかった。みんな夜が更けてくると、ポツポツと身の上話をしていた。知らない人だからこそ話せる話もあったと思う。話を聞いてもいいし、聞かなくてもいいし、聞いても反応しなくてもいい。なんの制限もない世界。
チャットで知り合った人に、実際に会ったこともある。当時はネットの人と会うなんて結構勇気のいることだと思うんだけど、怖いものなしの大学生だったから、一緒にごはんを食べたり、お茶をしたり、オペラを見に行ったりした。みんなひとえに普通の人で、いい人ばかりだった。会って話すのも良かったけど、やっぱりチャットの中の世界のほうが心地いいなと思った。そういう関係もあるんだ、と。
「さぱり」は残念ながら、2003年くらいになくなってしまった。それなりに喪失感はあったけど、現実世界では卒論やら就活やら恋愛やらいろいろ充実していて、特に思い出すことも少なくなっていった。今思い返してみると、家族でも、学校でも、部活でも、バイト先でもない不思議なコミュニティだったと思う。社会を知らないときに、年齢とか職業とか性別とかを超えた人たちと接点を持った初めての体験だった。
あの時間を一緒に過ごしたみんなは、今なにをしているんだろう。ちゃんと生きているのかな。ああいう居心地のいい場所、退屈で最高に面白い時間を味わうことって、もうできないかもしれない。私の青春だったと思う。
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